・2015年8月、KENWOOD最後の高級機といわれるD-3300Tの調整作業を承りました。
・高額なシンセチューナーに触れるのは久しぶりです。
・以下、作業内容のご報告です。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオ懐古録 KENWOOD D-3300T ¥140,000円(1986年)
・オーディオの足跡 KENWOOD D-3300T ¥140,000円(1986年発売)
・Tuner Information Center (T.I.C) KT-3300D(1987年 $525)※回路図あり
・取扱説明書(国内版)PDF
・KENWOOD製チューナーで D-3300T という型番はちょっと違和感ありですね。
・海外では KT-3300D という型番で売られていたようです。
・KT-3300D なら KT-1100D の上位機という位置付けになりそうなのに?
・国内には既に KT-3300 という廉価機があったので意図的に避けたのでしょうか?
■動作確認------------------------------------------------------------
・電源コードの印字 1986。
・外観はとても綺麗な個体です。
・フロントパネル、ボディ、サイドウッドともに目立つキズありません。
・天板の四隅に油が染みたような痕跡。水拭きでは取れません。
・上に載っていた機器の足跡でしょうか?
・黒色フロントパネル+黒色サイドウッドの組み合わせが精悍な印象です。
・サイドウッドと言えば茶色の木目が定番ですが黒木目もグッドです。
・底面に修理記録シールが貼ってありました。
・アンテナ端子A に同軸ケーブルを接続して電源オン。
・表示部は明るく点灯。照度の劣化や文字痩せは感じません。
・地元FM局を受信しながら点検。
・オートチューニングで+0.1MHzの周波数ズレ。
・RF SELECTOR:DISTANCE → STEREO受信OK。実際のステレオ感あり。
・RF SELECTOR:DIRECT → STEREOランプ点灯せず。モノラル音声。
・IF BAND切替(WIDE/NARROW)切替OK。MUTING動作OK。
・REC CAL信号OK。
・プリセットメモリや他のスイッチで接触不良(タクトスイッチ不良)なし。
・メモリー内容は電源プラグを抜いた状態で1週間後も保持していました。
<ご指摘事項>
・DIRECT側で感度が悪い。
・RF SELECTOR:DIRECT → STEREO受信できない。受信感度要調整。
・アンテナA に接続した状態で アンテナB に切り替えると、、
・受信感度は低下するもののそのまま受信できる。
・アンテナB には何も接続していないのに受信できる。
■内部確認------------------------------------------------------------
・基板上にあるブラック/ゴールドのシールドケースが存在感を誇示している。
・これを外すとアンテナA/B切換スイッチとフロントエンドユニット。
・RF SELECTOR を DIRECT にすると Q1(3SK122)をスキップ。
※Q1(3SK122)-2nd gate=High(3.7V)→ DISTANCE
※Q1(3SK122)-2nd gate=Low (-4V)→ DIRECT
・通常はDISTANCE受信、電波が強すぎる場合はDIRECTT受信という選択。
・メイン基板:X05-3160-00
・直立基板1:X86-1020-00 A/3 ※メイン基板右後方
・直立基板2:X86-1020-00 B/3 ※メイン基板右後方
・直立基板3:X86-1020-00 C/3 ※メイン基板右後方
・サブ基板:X13 ※電源スイッチ後方にある小さな基板
■アンテナ A/B:接続していない側でも受信できる件----------------------
・当初はアンテナ A/B 切換スライドスイッチの接触不良を疑いました。
・しかしスイッチの接触抵抗を測定してみると不良ありません。
・スイッチによるアンテナ切換は正常に行われています。
<切換スイッチ周辺調査>
・背面端子からフロントエンド入口まで A/B 2本のケーブルが引き込まれている。
・切換スライドスイッチのすぐ隣に初段RF増幅部が配置されている。
・基板上で A端子まで来ているFM信号を B端子でも拾ってしまうようです。
・この件は故障ではないと思います。
・D-3300Tユーザーの皆様、如何でしょうか?
■調整記録------------------------------------------------------------
・TICで入手したバラバラの回路図を整形して一枚物に仕上げました。
・さらに勉強材料として manual in PDFで英語版サービスマニュアル購入(USD7.99)。
・全38ページ。回路解説、きれいな回路図、部品表、調整要領などが揃っていました。
・以下は英語版調整要領を基にして一部アレンジした調整記録です。
【本体設定】
・IF BAND:WIDE
・RF SELECTOR:DISTANCE
・QUIETING CONTROL:NORMAL
※(X86),(X05),(X13):基板番号
【VT電圧】
・TP6~TP7 DC電圧計セット
・アンテナ入力なし
・76MHz → L5(X05-)調整 → 3.0V±0.1V
・90MHz → TC5(X05-)調整 →25.0V±0.1V
【検波調整】
・TP10~TP11 DC電圧計セット
・83MHz(無変調,80dBu)受信 → L12(X86-)調整 → 0.0V±10mV
・TP16~TP17 DC電圧計セット
・83MHz(無変調,80dBu)受信 → L9 (X86-)調整 → 0.0V±10mV
【RF調整】
・Multipath V端子 DC電圧計セット
・76MHz(1kHz,100%変調,40dBu)→ L1~4 (X05-)調整 → 電圧最大
・90MHz(1kHz,100%変調,40dBu)→ TC1~4(X05-)調整 → 電圧最大
【IFT調整】
・Multipath V端子 DC電圧計セット
・83MHz(1kHz,100%変調,30dBu)→ L10,L11,L22(X05-)調整 → 電圧最大
・83MHz(1kHz,100%変調,30dBu)→ L11(X86-)調整 → 電圧最大
【AUTO STOP調整】
・83MHz(19kHz信号,10%変調,14dBu)→ VR1(X86-)調整 → STEREOインジケータ点灯
【SIGNAL METER調整】
・(X13-)電源スイッチ後方の小さな基板
・83MHz(無変調,43dBu)→ VR3(X13)調整 → 7番目のドット(最上段)点灯
【TUNING METER調整】
・SELECTOR:MONO
・83MHz(10Hz,100%変調,80dBf) → VR2(X13)調整 → ※
※中央の縦白セグメント点灯、両側の赤縦セグメントの中点へ
【MPX VCO調整】
・TP15に周波数カウンタ接続
・83MHz(無変調,80dBf) → VR5(X05-)調整 → 76.00kHz±50Hz
【PILOT CANCEL調整1】
・音声出力をWavespectraで観察
・83MHz(19kHz信号,10%変調,80dBu)→ VR1(X05-)調整 → 19kHz信号最小
・左右chのバランス確認
【PILOT CANCEL調整2】
・83MHz(19kHz信号,10%変調,80dBu)→ L20(X05-)調整 → 19kHz信号最小
・左右chのバランス確認
【SUB CARRIER調整(38kHz)】
・音声出力をWavespectraで観察
・83MHz(SUB信号,1kHz,90%変調+19kHz信号,10%変調,80dBu)→ L19(X05-)調整 → 歪率最小
【歪調整1 DLLD】
・83MHz(MONO信号,1kHz,100%変調,80dBu)→ VR3(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整2 MONO】
・83MHz(MONO信号,1kHz,100%変調,80dBu)→ VR4(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整3 MONO】
・83MHz(MONO信号,1kHz,100%変調,80dBu)→ VR6(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整4 STEREO】
・83MHz(L信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR5(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整5 STEREO】
・83MHz(SUB信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR7(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整6】
・83MHz(MAIN信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR8(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整7】
・83MHz(L信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR9(X86-)調整 → 歪率最小
【歪調整8 NARROW】
・83MHz(MAIN信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR2(X86-)調整 → 歪率最小
【SEPARATION調整1 L】
・83MHz(R信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR4(X05-)調整 → L信号もれ最小
【SEPARATION調整2 R】
・83MHz(L信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR3(X05-)調整 → R信号もれ最小
【SEPARATION調整3 NARROW】
・IF BAND:NARROW
・83MHz(R信号,1kHz,90%変調+19kHz信号10%変調,80dBu)→ VR2(X05-)調整 → R信号もれ最小
【DEVIATION調整】
・REC CAL オン → VR4(X13)調整 → 左から4番目のドットが点灯する位置
■試聴----------------------------------------------------------------
・IF BAND=WIDE、RF SELECTOR=DISTANCE、QUIETING CONTROL=NOMMAL
・通常は上記設定で良好に受信できると思います。
・FM送信所が近くて電波が強過ぎる場合は RF SELECTOR=DIRECT とします。
・さすがケンウッドの高級機種ですね。
・再調整によって良い性能を取り戻したと思います。