・2015年8月初め、TU-X1の修理調整を承りました。
・かの有名なサンスイの高級機です。
・以下、作業内容のご報告です。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオ懐古録 SANSUI TU-X1 ¥135,000円(1979年)
・オーディオの足跡 SANSUI TU-X1 ¥135,000(1979年11月発売)
・Half about SANSUI FM/AM Tuner TU-X1※cooltune様のサイト。取扱説明書、カタログなど
■動作確認------------------------------------------------------------
・電源コードの印字「1979」、シリアルNo. 23905****、
・cooltune様のシリアル番号の読み方によれば「1979年5月製」と読み取れます。
・シリアルナンバーについては後述。
・想像以上にデカい(W480×H197×D450mm)、重い(16.2kg)、やはり巨艦です。
・特に奥行きはレコードプレーヤー並み。
・既に清掃済みのようですが、落とし切れないタバコ臭&ヤニ汚れがあり。
・でも外観のキズは少なめ、保存状態は良さそうです。
・FM回路とAM回路は同時に動作しており、OUTPUT1/2端子はそれぞれFM/AMを選択できる。
・緑色=FM。ダイヤル指針色、メーター針の色、インジケータ表示色
・赤色=AM。同上
・背面には本機の特徴である巨大なAMバーアンテナ。
・見慣れない端子は「FM FA-7アンテナ端子」と「AM IF OUT」
<ご指摘の故障状況>
・FMは受信できてるが感度が悪い
・シグナル/マルチパスメーターが動かない
・チューンメーターが動作しない
・STEREOランプが点灯しない
・AMは受信できる。
・メーター2つも動作しているが、音が出るまでに時間がかかる
・AM受信中に音が途切れることがある
<確認事項1>
・FMはMUTINGオンの状態では受信不可。
・MUTINGオフにすると地元FM局が聞こえました。
・ダイヤル指針位置と目盛りはほぼ合致している。
・FMシグナルメーターはごく僅かに振れている。
・FMチューンメーターも僅かに振れますが、振れ方がちょっとおかしい。
・FMの受信感度がかなり低下しているようです。
・STEREOランプが点灯しないのも受信感度低下が原因かも?
・AM放送は受信OK。AM受信は特に問題なさそう。
・音が出るまで時間がかかる、、この症状は別途確認します。
■内部確認<回路研究>-----------------------------------------------
・本体ボディを外すとFMチューナー基板が見える。
・本体をひっくり返して底板を外すとAMチューナー基板と電源基板が見える。
・指針は二つ、チューニングつまみも二つ、FM/AMそれぞれ独立して動作する。
・完全に独立したFMチューナーとAMチューナーが同じボディに納まっている。
・これは凄い構造ですね。
【FMフロントエンド:F2935】
・FM専用7連バリコン
・一体型のOSC部には調整用トリマが見えるがフレーム側に調整孔が開いていない。
・いや、孔は開いているけど開口位置がズレている。
・Amp修理工房様ではフレーム側面に調整孔を開けている。これも凄い!
・バリコン軸と指針側のプーリー軸は継手(ヘリカルカップリング)で接続。
・継手を外せば糸解き不要でフロントエンドユニットが外せる。
・ただしこの継手部品がプラスチック製で、既にひび割れしている。
・割れた部分は結束バンドで補修済み。
・これはAM部も同様の状態でした。
※「ヘリカルカップリング」という名称を学習しました。
※二つの軸を繋ぎ、中央の溝部分が偏心偏角を吸収する構造。
※二つの軸の直径はそれぞれ6mm。
【IF回路:F2936】
<Wide>
・uPC1163H→BPF01→uPC1163H→BPF02→uPC1163H→BPF03→LC(T01+TC01)→レシオ検波回路へ
<Narrow>ではさらにSAWフィルターSAF01が加わる
・HA1137W メーター、ミューティング制御用
・HA1137W 7ピン→19端子→Tメーター
・HA1137W10ピン→20端子→Tメーター
・VR01:Sメーター
・VR02:NOISE
【レシオ検波回路:F2937】
・T01
・T02
・T03
【MPX回路:F2972】
・HA11223W
・VR01:VCO→TP76kHz
・VR02:パイロットキャンセル
・VR03:MUTE
・VR04:AUDIO NOISE
・VR05:CAL REC TONE
・VR06:SEPARATION
【AM回路:F2783】シールドケースの内部
■FM部調整記録--------------------------------------------------------
【電源部電圧調整】※サービスマニュアルに記載なし
・[F2790]VR01 AVR調整 各端子の出力電圧が変化する。
・入力なしの状態で9番端子を+13.5Vに設定
・確認 5,6番端子 → +13.2V
8番端子 → -13.2V
【FETバイアス調整】
・入力なし
・[F2935]VR01調整→FET02(3SK41)S端子電圧1.0V
・[F2935]VR02調整→FET03(3SK41)S端子電圧1.0V
【IF、群遅延、検波コイル調整】
・FM mode:mono
・SSG:83MHz(65dBf、1kHz、100%変調)
・IF Band:Wide
・[F2935]T01,T02,T03,T04調整→歪率最小へ
・[F2936]T01,TC01調整→歪率最小へ
・[F2937]T01,T02,T03→歪率最小へ
・IF Band:Narrowに切替
・[F2936]T02調整→歪率最小へ
【Tメーター調整】
・SSG:83MHz(65dBf、1kHz、100%変調)
・[F2936]T05調整→Tメーター中点へ
・入力なし
・[F2936]VR02調整→Tメーター中点へ
【フロントエンド調整】
・[F2935]OSC PACK内の調整不可※
・[F2935]90MHz・・TC01,TC02,TC03,TC04,TC05→Sメーター最大
・[F2935]76MHz・・L01,L02,L03,L04,L05→Sメーター最大
※OSCトリマの調整法は以下の2通り。
1. Amp修理工房様のように側面に調整孔を開ける。
2.バリコン軸の継手を緩め、現状の発振周波数に指針を合わせて締め直す。
【Sメーター調整】
・SSG:83MHz(65dBf、1kHz、100%変調)
・[F2936]T03,T04調整→Sメーター振れ最大位置へ
・SSG:83MHz(100dBf、1kHz、100%変調)
・[F2936]VR01調整→Sメーター指針100dBf位置へ
【MUTING調整】
・FM mode:auto
・SSG:83MHz(18dBf)
・[F2972]VR03調整→STEREOインジケーター18dBf以上で点灯、18dBf以下で消灯
【レシオ検波調整】
・[F2937]T02 → TP02~GND電圧計セット(Tメーター代用)
・[F2937]T03 → 歪率最小へ
【VCO調整】
・FM mode:auto
・SSG:83MHz(65dBf、無変調)
・[F2972]VR01調整→TP01=76kHz
【PILOT CANCELL調整】
・FM mode:auto
・SSG:83MHz(65dBf、19kHz、9%変調)
・[F2972]T01,VR02調整→Lch/Rchパイロット信号漏れ最小
【Separation調整】
・FM mode:auto
・SSG:83MHz(65dBf、STEREO)
・[F2972]VR06調整→Lch/Rch漏れ信号最小
【Auto Noise Filter調整】
・FM mode:auto
・Noise Fil:auto
・SSG:83MHz(40dBf、Sub-1kHz+19kHz)
・WaveSpectraでLch/Rch信号レベル記録
・SSG:83MHz(40dBf、Sub-10kHz+19kHz)
・[F2972]VR04調整→先の記録-3dBに設定
【Calibration調整】
・FM mode:auto
・SSG:83MHz(65dBf、1kHz、100%変調)
・WaveSpectraでLch/Rch信号レベル記録
・[F2972]VR05調整→先の記録-5dBに設定
■AM部調整記録--------------------------------------------------------
・海外版サービスマニュアルではIF=455kHzとなっています。
・1979年2月発行国内版パンフレットを読むとIF=450kHzと記載あります。
・実機を確認したところ局発周波数は放送局周波数+450kHzが出ていました。
・TP03には450kHzが出ていました。
・ということでIF=450kHzと読み替えて調整しました。
【IFコイル調整】
・[F2783]TP03に450kHzを注入
・[F2783]T02調整→TP10波形最大へ
【AM OSC調整】
・SSG:600kHz、60dB(1kHz、30%mod)
・[F2783]T01調整 →Tメーター中点
・SSG:1400kHz、60dB(1kHz、30%mod)
・[F2783]TC03調整 →Tメーター中点
【RF調整】
・SSG:600kHz、60dB(1kHz、30%mod)
・L01(バーアンテナ)、[F2925] T03調整 → Sメーター最大へ
・[F2783]T01調整 →Tメーター中点
・SSG:1400kHz、60dB(1kHz、30%mod)
・[F2925] T02、[F2783]VC701調整 → Sメーター最大へ
【AGC調整】
・SSG:90dB(1kHz、30%mod)
・[F2783]VR01調整→TP10電圧160mV ※実機ではTP10電圧=6V前後?
【Sメーター調整】
・[F2783]T03調整→Sメーターの振れ最大へ
・SSG:80dB(1kHz、30%mod)
・[F2783]VR02調整→AMシグナルメーター目盛り80
【Tメーター調整】
・入力無し
・[F2783]VR08調整→AM Tメーター中点
【VCO調整】
・入力無し
・[F2783]T04調整→TP12周波数カウンタ 450kHz
【90°位相シフト調整】※未調整
・[F2783]VR07→中央位置へ
※[F2783]TP03 にSSG:90dB(1kHz、30%mod)注入
※[F2783]TP13、TP14 Wavespectra接続
※[F2783]VR07調整→90°位相調整
【オーディオ位相調整】
・[F2783]TP6,TP7 オーディオ信号入力(1kHz,2.5v)
・[F2783]VR03調整
・[F2783]TP8,TP9 オシロスコープでリサージュ波形(正円)確認
・[F2783]TP6,TP7 オーディオ信号入力(9kHz,2.5v)
・[F2783]VR04調整
・[F2783]TP8,TP9 オシロスコープでリサージュ波形(正円)確認
※リサージュ波形はWavespectraで確認できました
【ビートキャンセル調整】
・Beat Cancellerオン。lower
・適当な地元AM局を受信する。シグナルメーターの振れ記録
・SSG:放送局より-10dBの信号強度、AM局の周波数+4kHz
・[F2783]VR05調整 → ビートノイズ最小
【ミューティング調整】
・MUTINGスイッチオン
・SSG:40dB(1kHz、30%mod)
・[F2783]VR06調整 →ミューティング開始位置
■試聴---------------------------------------------------------------
・ほとんど振れなかったFMシグナルメーターが大きく振れるようになりました。
・Tメーターの挙動も正常になりました。
・ミューティング動作OK。STEREOランプ点灯します。
・FM部に故障個所は無かったです。
・再調整によって良い性能を取り戻しました。
・OUTPUT1/2端子からは19kHz以上の信号がそのまま出ています。
・FM OUTPUT端子からはLPFを通過した音声が出ています。
・AM部も受信感度の調整でシグナルメーターの振れが大きくなりました。
・wide/narrow切替できますが、私はnarrow側で聴いていた方が落ち着きます。
■動作確認2---------------------------------------------------------
<音が出るまで時間がかかる>
・FM/AMとも放送局の周波数に合わせた状態で電源オフ。
・電源回路にテスターをセットした状態で電源オン、不具合発生を待ちました。
・通常は電源オンから約3秒で音が出る。
・通電直後の電圧は安定しないが、約3秒後に+13Vで安定。
・電圧が安定するまでの3秒間はFM/AMとも音が出ません。
<不調時の動作状況>
・1週間ぶりに通電したところご指摘の症状が発生しました。
・音が出るまで約25秒かかりました。
・最初の約10秒は電圧計の値は不安定、その後8V付近から徐々に電圧上昇。
・約10Vを超える辺りから歪んだ放送音が出はじめる。
・電源電圧が13Vで安定すると出てくる音も安定する。
■修理記録:電源基板 電解コンデンサ交換------------------------------
・もう一台のTU-X1(部品取り機)の電源基板と丸ごと交換しようとしたところ、、
・よく見ると電源基板の様子が違いました。
・端子の配置が違う、電解コンデンサの容量が違う、裏面に直付け部品の有無
・基板番号も微妙に違いました。F2790-A、F2790-B
<交換部品>
・C06: 470uF/35V
・C07: 470uF/35V
・C08:1000uF/35V
・C09:1000uF/35V
・C10: 220uF/35V
・C11: 220uF/35V
・C14: 220uF/10V
・C17: 330uF/25V
・C18: 330uF/25V
・C19: 1uF/50V
・C20: 4.7uF/50V
・電解コンデンサ劣化を疑って全数MUSE FGクラスに交換。
・容量耐圧は同じものですが、外形サイズが一回り小さくなりました。
・エージングのため24時間連続運転。その後コンセントプラグを抜いて1週間放置。
・電源オン、、約2秒で音が出るようになりました。
・音が出るまで時間がかかるという症状はこれで改善したと思います。
■試聴-----------------------------------------------------------------
・正直なところ、FMの受信性能や音質は同時期の他のチューナーと大差ないです。
・本機の特徴はやはり独特のAMチューナー部ですね。
・ノイズを感じないAM放送は新鮮な驚きでした。
・この状態でお返ししますので動作確認をお願いします。
・部品取り用にお預かりしたもう一台のTU-X1は、結局無傷で残っています。
・こちらは故障箇所が多々ありそうなので、もう少し時間をかけて整備してみます。
・貴重なツーショット写真を撮っておきました。
■おまけ(調査データ)-------------------------------------------------
・cooltune様のサイトに サンスイ製品シリアル番号の読み方があります。
・例えばシリアル番号 239021234 の場合
・"23" "9" "02" "1234" と読みます。
・組立てライン : 23
・製造年 : 1979年
・製造月 : 2月
・製造番号 : 1234
・ネット上で見つかるTU-X1の背面写真からシリアル番号を集めました。
・製造時期や組み立てラインの違いは5種類ありそうです。
・239020001~ 1979年2月製造 国内機
・239050001~ 1979年5月製造 国内機
・210040001~ 1980年4月製造 海外機
・210070001~ 1980年7月製造 海外機
・210110001~ 1980年11月製造 国内機
・今回のTU-X1は23905****、部品取り用TU-X1は23902****でした。
・AU-X1/TU-X1カタログの発行年月は1979年2月で初期ロットと一致します。
・21011****は基板の様子が随分異なる、と指摘するサイトもありました。
・同期検波の勉強や情報収集など、おかげ様で楽しい夏休みが過ごせました。