・2023年1月、KT-9700の故障機が届きました
・IFバンドが Normal と Wide のポジションで受信できないそうです
・以下、作業記録です
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオ懐古録 TRIO KT-9700 ¥150,000 1976年
・Hifi Engine KENWOOD Model 600T $650 1976
■パルスカウント検波機の系譜------------------------------------------
【1976年】パルスカウント検波チューナー登場
・KT-9700 ¥150,000 FM専用9連バリコン
・KT-8000 ¥ 69,800 FM専用7連バリコン
【1978年】検波回路のIC化(TR4010/TR4010A)
・KT-9900 ¥200,000 FM専用9連バリコン
・KT-8300 ¥ 63,000 FM専用5連バリコン
・KT-8100 ¥ 42,000 FM4連AM2連バリコン
【1979年】検波回路のIC化(TR4010A)
・L-01T ¥160,000 FM専用7連バリコン ※初のKENWOODブランド機
・L-07TII ¥130,000 FM専用7連バリコン
・KT-80 ¥ 37,000 FM専用4連バリコン ※システムコンポの一部
【1980年】ニューパルスカウントシステム登場、専用IC進化(TR7020+TR4011)
・KT-1000 ¥69,800 FM5連AM3連バリコン
・KT-900 ¥49,800 FM4連AM2連バリコン
【1981年】ニューパルスカウントシステム、専用IC(TR7020+TR4011)
・KT-9X ¥64,800 FM5連バリキャップ ※唯一のシンセサイザー機
【1982年】ニューパルスカウントシステム、専用IC(TR7020+TR4011)
・KT-1100 ¥73,800 FM5連AM3連バリコン
・KT-990 ¥53,800 FM4連AM2連バリコン<
※個人的には最後のKT-990がお気に入り機種です
■動作確認------------------------------------------------------------
・外観は目立つ傷もなくとても綺麗な状態です
・背面パネルの端子も艶があります
・さて、FMアンテナを接続して名古屋地区のFM局の受信テスト開始
・周波数窓の照明点灯、電球切れはなさそうです
・IFバンド切換の緑色インジケーター点灯、MUTINGインジケーター点灯
・まずはIFバンド=Narrowで名古屋地区のFM局を受信できました
・ただSメーター最大点とTメーター中点が一致しない
・Tメーターの中点を少し外れた位置でSTEREOインジケーター点灯
・Narrow受信時は受信感度の低下、FM同調点のズレなどが予想されます
・一方でIFバンド=Normal/Wideでは受信不能です
・SメーターはNarrow受信時と同様に振れるがTメーターは全く不動
・出てくる音は局間ノイズのみ、MUTINGオフでも同じ状態
・Normal/Wide時は感度低下、あるいは全く受信できていないかも?
■内部確認------------------------------------------------------------
・X00-1810-10:電源基板
・X01-1250-10:RF 基板
・X02-1090-10:IF 基板
・X02-1110-10:検波基板
・X04-1090-10:MPX基板
・X13-2370-10:スイッチ基板
・IF基板はコネクタ式になっており基板を持ち上げると基板ごと取り外せる
・MPX基板の裏面は底板を外せばアクセスできる
・KT-9900よりメンテナンスしやすいです
■修理記録------------------------------------------------------------
・回路図を見ながら故障原因を考えること、、これが楽しいひと時です
・ヒントはNarrow受信とSメーター動作は正常、Normal/Wideが受信不可という現象
・IF基板における両者の信号分岐点は Q1 (2SK55)
・怪しいのは Q1(2SK55)と以降の Q2(2SC535) IC1(TA7060P)辺りでしょうか
・手始めにQ1(2SK55)を新品に交換したところ、何と先頭打者ホームラン!
・雑音に塗れていたNormal/Wide受信が復旧しました
・IF基板は丸ごと取り外せるので作業は楽でした
■修理記録:スイッチ接点洗浄------------------------------------------
・最近オールド機でトラブルが多いのはセレクタスイッチの接点不良
・長年の使用によって接点が汚れて接触不良を起こす事例です
・本機では特に不具合はありませんが予防処理しておきました
・接点にエレクトロニッククリーナーを軽く噴射し何度も操作を繰り返す
・綿棒で拭き取った後、エアダスターを噴射して乾燥させる
・効果の程は不明、気休め程度かもしれません
■調整記録------------------------------------------------------------
【OSC調整】
・83.0MHz → フロントエンドOSC調整 → Sメーター最大
※一点調整のため両端では多少のズレが発生します
【RF調整】
・76.0MHz → L1,L3,L4,L5,L7,L8,L9 → Sメーター最大
・90.0MHz → TC1,TC2,TC3,TC4,TC5,TC6,TC7 → Sメーター最大
【IFT調整】
・83.0MHz → フロントエンドL12調整 → Sメーター最大
・歪最小になるIF周波数=10.73MHz
【Tメーターオフセット調整】
・IF基板(X02-1090-10)12番端子に周波数カウンタ接続
・IFバンド=WIDE
・83.0MHz → 選局ツマミを回して1.994MHz(*)を示す位置へ
・検波基板(X02-1110-10) VR1調整 → Tメーター中点
※本機の実測IF周波数=10.73MHz
※本機の水晶発振子= 8.736MHz
※第2IF周波数10.73-8.736=1.994MHz
※本来は10.7-8.736=1.964MHzですが実機に合わせました。
【IF歪調整】
・IFバンド=WIDE
・83.0MHz → Tメーター中点へ
・IF基板(X02-1090-10) L15,L16,L17,L18調整 → 高調波歪最小
・IFバンド=NARROW
・83.0MHz → Tメーター中点へ
・IF基板(X02-1090-10) L19調整 → 高調波歪最小
【ミューティング調整】
・IF基板(X02-1090-10) D1カソード側にDC電圧計セット
・83.0MHz → L20調整 → 電圧最大
・ミューティングスイッチ40dB → VR1調整
・ミューティングスイッチ20dB → VR2調整
【Sメーター調整】
・IF基板(X02-1090-10) D9カソード側にDC電圧計セット
・83.0MHz → L21調整 → 電圧最大
・83.0MHz 20dB → VR3調整 → SメーターMIN調整
・83.0MHz 90dB → VR4調整 → SメーターMAX調整
【出力調整】
・MPX基板(X04-1090-10) R2右足にAC電圧計セット
・83.0MHz 100%変調信号 → VR1調整 → 500mV
【VCO調整】
・MPX基板(X04-1090-10) TP 周波数カウンタ接続
・83.0MHz → VR2調整 → 19kHz
【セパレーション調整】
・固定出力端子をWaveSpectraに接続
・IFバンド=WIDE
・83.0MHz ST信号 → VR3調整 → Rch
・83.0MHz ST信号 → VR4調整 → Lch
【DEVIATIONメーター調整】
・83.0MHz 100%変調信号 → VR5調整 → DEV.メーター100%位置へ
【Tメーター振れ幅調整】
・83.0MHz±300kHz → VR3調整 →Tメーター左右の振れ幅調整
■試聴----------------------------------------------------------------
・故障部品の交換と再調整を経てよい音で受信できるようになりました
・外観は1976年発売の機種とは思えないほどの美しさです
・まだまだ現役で活躍できます