・2014年6月初め、入手の機会を待っていたTX-8900IIがついにやって来ました。
・TX-8900に「II」が付いただけ、ネーミングに行き詰まった感じの型番です。
・この時期のPIONEER製中級機はICを用いたクアドラチュア検波を採用していますが、、
・TX-8900/8900II だけは分布定数形遅延線検波という珍しい検波回路を搭載しています。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 Pioneer TX-8900II ¥65,800(1976年発売)
・PIONEER アンプチューナー総合カタログ 1976年10月版
・輸出機情報 Hifi Engine Pioneer TX-9500II ※英語版サービスマニュアルあり
■輸出機 TX-9500II ブロック図------------------------------------------
・Hifi Engine で入手した TX-9500II回路図と TX-8900II実機を比較しました。
・TX-9500IIはFMドルビー放送に対応した機種でした。
・TX-9500IIの背面パネルには「ディエンファシス切替スイッチ」が付いています。
・あとは電源部構成が微妙に異なりますがそれ以外はほぼ同一でした。
■分布定数形遅延線検波-------------------------------------------------
・パイオニアではこの検波方式を「超広帯域直線検波」とカタログに表記しています。
・F-26では改良型として「Parallel Balanced Linear Detector:PBLD」が登場します。
・動作原理の研究 →
【超広帯域直線検波】
・1974年 Pioneer TX-9900 140,000円
・1974年 Pioneer TX-8900 65,000円 ※過去記事2012/02/04
・1975年 Pioneer EXCLUSIVE F-3 250,000円
・1976年 Pioneer TX-8900Ⅱ 65,800円 ※今回記事
【Parallel Balanced Linear Detector / PBLD】
・1977年 Pioneer F-26 135,000円 ※過去記事2010/09/12
・1978年 Pioneer F-007 95,000円 ※過去記事2012/02/22
・未入手は TX-9900 と EXCLUSIVE F-3 の2機種となりました。
■動作確認------------------------------------------------------------
【外観】
・ボディ両サイドに販売店シール。内外無線の3年保証付き。
・保証期間 昭和52年1月21日~昭和55年1月20日。
・電源オン、照明ランプ点灯、Wide/Narrowポジションランプ点灯、球切れなし。
・フロントパネルとツマミ類には経年の汚れがあるものの目立つ傷は無い。
・ボディも目立つ傷はないが、後部放熱孔周辺にサビがでている。
・AMアンテナに破損なし。可変出力端子だけピカピカ、他の端子は酷いサビ。
【FM受信】
・FMは0.2MHzほどの周波数ズレ、Tメーター、Sメーターとも動作は正常。
・STEREOランプ点灯、でも出てくる音にステレオ感を感じない。
・左右の音量差。それに音がとても悪い。かなり歪んでいる感じ。
・Wide側、Narrow側どちらで受信しても症状は同じ。
・マルチパス出力H端子からはまともな音が出ている。
・ミューティング動作OK、REC CALトーンOK。
・復調回路に不具合がありそうです。
【AM受信】
・背面バーアンテナでAM受信確認。Sメーター動作OK。音も問題なし。
・AM部は問題なし。
■内部確認------------------------------------------------------------
・放熱孔があるボディ後部だけ分厚いホコリが堆積しています。
・きれいに清掃してから内部確認しました。
・アンプ並みの重量級電源トランス。本体重量9.4Kg。
・厳重なシールドケースに納まったフロントエンド。
・FM5連AM3連バリコン。IF段はWide/Narrow別系統。
・別にPA3001もある、、複雑な回路構成です。
・カタログ記載事項、回路図、実機を見比べながら確認しました。
【Narrow IF】
・2素子セラミックフィルター5個 → 超広帯域直線検波器
【Wide IF】
・4極フェイズリニアフィルター+SAW(表面弾性波)フィルター → 超広帯域直線検波器
【制御系】
・Narrow IFから分岐 → PA3001(同調点、Sメーター駆動、ミューティング検出)
・PA3001:FM IF SYSTEM(HA11225と同じ)クアドラチュア検波
・PA1001:PLL MPX(KB4437と同じ)
・PA1002:オーディオアンプ、ミューティング回路
・PA2002:電源用IC
・HA1452:REC LEVEL TONE
・HA1197:AM用IC
・M5109PR:分布定数形検波回路の要となるIC
■分解清掃------------------------------------------------------------
・フロントパネル裏側に「51.4.15」の印字。昭和51年(1976)4月15日と読めます。
・チューニングツマミはアルミ無垢製でした。
・切替レバーの金属部分を覆うためにプラスチック製台座が付いています。
・バラバラに分解してピカピカに磨き上げました。
■不具合確認----------------------------------------------------------
・信号発生器から1kHz基準信号を送信したところ、更なる不具合に気が付きました。
・何と、FMモノラル信号を送ってもSTEREOランプが点灯します。
・WaveSpectraで基準信号の波形を見ると激しい高調波がたっぷり。
・左右の出力に約10dBのレベル差。モノラルでも明らかに左右の音量が違う。
・試しにVCO調整VR、セパレーション調整VRを回しても全く変化なし。
・マルチパス出力H端子から出ているコンポジット信号の波形は正常と思われます。
・念のために 復調マシンに改造したTU-S707X(改)に接続して動作確認。
・TU-S707X(改)からはWide/Narrowとも綺麗に復調されたステレオ音声が出てきました。
・サービスマニュアルに従ってフロントエンドから一通り受信調整してみました。
・検波回路までは各部キチンと調整できました。
・でもMPX基板ではVCO調整不可。76kHzが確認できず。STEREOランプ点灯したまま。
・Wide/Narrowともにセパレーション調整不可。
・PA1001-2ピン 入力信号(コンポジット信号)は正常。
・PA1001-4ピン、5ピンから出力される左右の音声信号は酷い状態。
・PA1001-15ピン VCO76kHzが確認できない。
・これはPA1001の故障ですね。MPX-ICの不調事例は久しぶりです。
■PA1001交換、ついでにKB4437も試す------------------------------------
・解体して基板だけ保管していた PIONEER F-73にPA1001が載っていました。
・そういえば PA1001=東光KB4437
・こちらも基板だけ保管している Harman Kardon T610からKB4437を取り外す。
・TX-8900IIのMPX基板をひっくり返してPA1001を取り外す。
・交換実験を実施するためICソケット設置。
・まずはF-73から外した新PA1001を設置。
・スイッチオン、、きれいなステレオ音声が聴こえてきました。
・VCO調整で76kHzに合わせられます。セパレーション調整で軽く50dB確保できました。
・次にICをKB4437に交換、、、こちらも正常動作しました。
・VCOとセパレーションを僅かに微調整してPA1001とほぼ同等性能を確認しました。
・やっぱり PA1001=KB4437ですね。初めて実機で確かめました。
■調整記録------------------------------------------------------------
・F-73のPA1001をセットして、もう一度最初から再調整やり直しました。
【フロントエンド調整】
※シールドカバーを外して上部から調整した後にカバーを被せると受信周波数がズレる。
※カバーは外さず、調整は底部から行うこと。
【OSC調整】
・76MHz→Lo、90MHz→TCo
【RF調整】
・LA、LR1、LR2、LR3 → 76MHz
・TCA、TCR1、TCR2、TCR3 → 90MHz
【FM同調点調整】PA3001受信調整、Narrow受信
・T12調整→Tメーター中央
【IF Wide調整】Wide受信
・T1、T2、T3、T4、T5 → 高調波歪最小へ
【IF Narrow調整】Narrow受信
・T6 → 高調波歪最小へ
【Wide/Narrow共通調整】
・T7,T8,T9,T10,T11 → 高調波歪最小へ
【検波調整】
・VR2 → 高調波歪最小へ
【Sメーター調整】
・VR1 → SSG出力50dB → Sメータ目盛り4.0
・VR3 → SSG出力80dB → Sメータ目盛り4.8
【ミューティング調整】
・VR4 → Muting1 14dB
・VR5 → Muting2 29dB
【MPX基板調整】
・VR1 VCO調整 → 76kHz ※TP26
・VR2 パイロットキャンセル調整
・VR3 セパレーション調整 Wide
・VR4 セパレーション調整 Narrow
・VR5 REC LEVEL調整 -6dB
【AM調整】
・TC1、TC2、TC3
・T13、T14、バーアンテナ内コイル
■聴いてみて----------------------------------------------------------
・苦労した甲斐があってFM放送がとても良い音で鳴っています。
・低音が良く出ているような気がしますが、気のせいかも?
・MPX部のICを交換式に加工したので「楽しい実験機」として活用できそう。
・また楽しみが増えました。