・2018年10月、L-07TIIの修理調整作業を承りました。
・薄型のパルスカウント検波搭載機です。
・以前から興味があった機種ですが実機に触れるのは初体験!
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 TRIO L-07TII ¥130,000(1979年頃)
・オーディオ懐古録 TRIO L-07TII FM STEREO TUNER ¥130,000(1979年頃)
・Hifi Engine Kenwood L-07T FM Stereo Tuner (1977-81) USD $625 (1979)
・LシリーズといえばKENWOODブランドを連想しますがこれはTRIOブランド。
・型番から考えて元祖「L-07T」があると思うのですが、、見たことがない。
・TICで L-07T について分かったこと。
・1978, $625
・外観はよく似ているが、電源スイッチの形状、ラックマウント仕様が違う。
・パルスカウント検波ではなくクアドラチュア検波。
■動作確認------------------------------------------------------------
・薄型ボディなのに持ち上げるとずっしり重量感。
・ボディ上面が薄っすら変色、上に載せていた機器の足跡、目立つ擦り傷。
・FMアンテナを接続して電源オン。
・周波数窓の照明点灯、二つのメーター照明点灯。
・名古屋地区のFM放送局を+0.1MHzの位置で受信。
・Tメーター中点とSメーター最大点がわずかにズレている。
・STEREOランプ点灯、実際のステレオ感もOK
・MUTING動作OK
・マルチパスH端子からも音声が聞こえる。
・基本動作に問題なし、、、と思っていたら、、
・約30分ほど通電していたら突然音声が途切れた!
・メーターを見るとSメーターが不規則に大きく振れる。
・感度を失ったときにMUTINGが作動する状態。
・MUTINGオフにするとSメーターの振れに応じて雑音交じりの放送が聞こえる。
・その後Sメーターが完全に感度を失い雑音しか聞こえない。
・翌日になって再度通電すると、Sメーター全く振れず。受信不可。
・これは重症か、、、?
■内部確認------------------------------------------------------------
・アルミ製一枚板の天板と木製サイドウッドが合体した「コの字型」ボディ。
・FM専用7連バリコン OSC部は密閉型
・IF回路はwide/narrowに加えてSメーター専用回路もあり
・wide回路
2SK55→2SC535→SAF1→2SC535→uPC577H→SAF2→TA7060P→T1
・narrow回路
2SC535→2SK55→CF1→TA7060P→CF2→TA7060P→TA7060P→CF3→TA7060P→TA7060P→T1
・Sメーター回路
Q7(2SC535)→CF4→CF5→Q8,9,10,11,12(2SC535)→T3→IC8(NJM4558D)→Sメーター
・IC7:HA1137W→Tメーター駆動、Sメーター回路は未使用。
・第2OSC回路
・IC10:HA11223
・電源回路の横に黒いボックスは何でしょう?
・底板を外して裏側から黒ボックスにアクセス可能。
・分解してみると独立したパルスカウント検波基板が収まっていました。
■修理記録:電源回路--------------------------------------------------
・Sメーターが激しく左右に振れて受信状態が不安定になる。
・ということはSメーター回路の故障か?
・しかしSメーター回路が壊れてもWide/Narrow回路と検波回路は生きているはず。
・wide/narrow どちらも同じ不具合症状、マルチパスH端子も同じ症状
・HA1137W 6ピン クアドラチュア検波信号も出ていない。
・まずは電源電圧チェックから着手。
電源回路規定値 実測値
・ 4番端子 -13.5V -8~-9V 不安定
・ 6番端子 (GND) ±0V
・ 7番端子 +13.5V +8~+9V 不安定
・10番端子 + 3.7V +4.5V
・12番端子 + 2.5V +3.2V
・規定値に対して電圧不足かつ不安定な状態です。
・IC1:JRC4558D 1ピン -8~-9V 不安定
・IC1:JRC4558D 7ピン +8~+9V 不安定
・IC1:JRC4558D の足が8本とも黒く変色している、、これが怪しいか?
・通常なら4558を交換するところですが、、その前に、、
・思うところあって歯ブラシ(硬め)で足と足の隙間を磨いてみました。
・黒い汚れを落としてみると、何と!これで直りました。
・各部電圧が規定を示し、受信動作も正常になりました。
・どうやら黒く変質した物質が端子間を短絡させるようです。
・他のICやトランジスタでも同様の症状があったので丹念に清掃しました。
■調整記録------------------------------------------------------------
・MUTING オフ
・IF BAND wide
【FM OSC調整】
・SSG 76MHz → OSCコイル調整 → Sメーター最大
・SSG 90MHz → OSCトリマ調整 → Sメーター最大
※OSC調整孔がユニット背面側にあるのでアクセスが難しい。
※背面パネルの「PASSED」シールを剥がすと丸穴がある。
※柄の長いセラミックドライバーがあれば調整可能。
【RF調整】
・SSG 76MHz → L1,L3,L4,L5,L7,L8調整 → Sメーター最大
・SSG 90MHz → TC1~TC6調整 → Sメーター最大
・SSG 83MHz → L10調整 → Sメーター最大
【Sメーター調整】
・SSG 83MHz → T3調整 → Sメーター最大
・SSG 83MHz,100dB → VR2調整 → Sメーター目盛10
・SSG 83MHz, 10dB → VR2調整 → Sメーター目盛 1
【Tメーター調整】
・音声出力 → WaveSpectra接続
・SSG 83MHz → 高調波歪が最小になる位置で受信
・SSG 83MHz → T2調整 → Tメーター中点
【ノイズアンプ調整】
・Q14-G 電圧計セット
・離調時 → VR4調整 → 7.0~7.5V
・同調時 → 0V 確認のみ
【2nd IF調整】
・TP16 → 周波数カウンタ接続
・T4調整 → 1.96MHz
【MUTING調整】
・SSG 83MHz 20dB → VR3調整 → Muting作動位置
【パイロット信号キャンセル調整】
・83MHz ST変調 → VR6調整 → 19kHz漏れ信号最小
【VCO調整】
・R107左足 → 周波数カウンタ接続
・83MHz受信 無変調 → VR5調整 → 76kHz
【セパレーション調整】
・wide
・83MHz ST信号 → VR7調整 → 漏れ信号最小
・83MHz ST信号 → VR8調整 → 漏れ信号最小
・narrow
・83MHz ST信号 → VR9調整 → 漏れ信号最小
■試聴----------------------------------------------------------------
・Sメーター専用IF回路やパルスカウント検波の独立基板など凝った構成です。
・さすがオーディオ全盛期の高級チューナーですね。
・元祖「L-07T」を見てみたい。