・2016年2月、研究材料としてT-117をご提供いただきました。
・薄型ボディが特徴のFM/AM/TVチューナーです。
・調べてみると電波状況に応じてPLL検波とパルスカウント検波を切り換える仕組み。
・これはとても興味深い機種です。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 ALPINE/LUXMAN T-117 ¥59,800(1987年6月発売)
・Hifi Engine LUXMAN T-117 AM/FM Stereo Tuner (1988-90) ※TV回路なし
・ALPINE/LUXMANはアルパインとラックスマンのジョイントブランド。
・ネット情報によると1984年~1994年に存在したようです。
・でもT-117は海外ではLUXMAN単独ブランドで販売されていました。
■動作確認------------------------------------------------------------
・電源コードの印字は「1986」。
・脚を含めた本体高さはわずか62mm。サンスイTU-S707Xに匹敵する薄型ボディです。
・外観にキズは少なく保存状態は良いのですが、天板がベタベタします。
・背面には専用端子で繋がったAMループアンテナ付属。たぶん純正品。
・FMアンテナを接続して電源オン。
・表示部が点灯、文字痩せや欠損なし。
・オート選局で地元FM局を受信。STEREOランプ点灯。
・IF BAND切替インジケーター点灯。REC CALトーンOK。
・付属AMアンテナで地元AM局を受信。ただAM受信が不安定。
・AMアンテナ端子に接触不良がありそう。
・TV機能は確認不可。
■内部確認------------------------------------------------------------
・FM4連バリキャップのフロントエンドパック。
・IF BAND切り替え(WIDE/NARROW)
・LA1231N:クアドラチュア検波、MUTING制御、Sメーター制御
・uPC1211:PLL検波
・74LS123:パルスカウント検波用ワンショットマルチ
・BU5053:PLL検波パルスカウント検波切替
・LA3450:復調用IC
・LA1245:AMシステム
■パルスカウント検波:第2IF周波数-------------------------------------
●KENWOOD製パルスカウント機(1981以前)
[ 10.7MHz ] → [ LC発振8.74MHz ] → 1.96MHz
●PIONEER F-120/120D(1982/1984)
[ 10.7MHz×2 ] → [ 水晶発振20.14MHz ] → 1.26MHz
●Technics ST-G7 (1983)
[ 10.7MHz×3 ] → [ 水晶発振32.3MHz ] → 0.8MHz
●ALPINE/Luxman T-117(1987)
[ 10.7MHz×3 ] → [ 水晶発振32.975MHz ] → 0.8075MHz
・T-117は Technics ST-G7 と同様にIF周波数を3逓倍する方式です。
・電波強度が十分に高いときはパルスカウント検波、弱いときはPLL検波に切り替える。
・検波方式の特徴を活かした贅沢な回路構成ですね。
・パルスカウント検波と MPX-IC LA3450 との組み合わせは初体験。
■修理記録------------------------------------------------------------
・AM放送の受信状態が不安定です。
・ループアンテナに触れると受信できたりできなかったりします。
・AM回路周辺を指で触るときれいに受信できます。
・接触不良が怪しいかも?
・薄型ボディの弱点で底板が外せません。基板全体を外して裏返しました。
・予想通りAM端子がつながる部分にハンダクラック発見。
・これを補修して修理完了。
■調整記録------------------------------------------------------------
・サービスマニュアルにはJAモデルの掲載もあり日本語で調整方法が記されています。
・ただ簡易的な調整方法なので独自にアレンジして以下に残します。
【本体設定】
・auto seek OFF
【VT電圧】
・フロントエンドパック手前に並んだTPのうち右から5番目にDC電圧計セット
・アンテナ入力なし
・76.1MHz → 3.5V ※確認のみ
・89.9MHz → 22.1V ※確認のみ
【クアドラチュア検波調整】※Sメーター、MUTING用
・TP2~TP3(R157両端) DC電圧計セット
・83MHz(無変調,80dB)→ L105調整 → 0.0±20mV
【RF調整】
・LA1231 13端子(R151奥側) DC電圧計セット
・83MHz(無変調,40dB)→ L1~L3調整 → 電圧最大
※空芯コイルの調整は難しいので今回はノータッチ
【IFT調整】
・LA1231 13端子(R157奥側) DC電圧計セット
・83MHz(無変調,40dB)→ T1(フロントエンド内)調整 → 電圧最大
【IFモノラル歪調整】
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・83MHz(1kHz,100%変調,70dB)MONO受信
・VR202 → 時計方向に廻しきる
・VR201 → 反時計方向に廻しきる
●この状態でパルスカウント検波出力がMPX回路に流れる
・L101調整 → 歪最小
【IFステレオ歪調整】
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・83MHz(1kHz,100%変調,70dB)STEREO受信
・L104調整 → 歪最小
【パルスカウント検波調整】
・83MHz(1kHz,100%変調,70dB)MONO受信
・R224(奥側)周波数カウンタ接続 → L205調整 → 10.7MHz ※確認のみ
・C232(手前)周波数カウンタ接続 → L206調整 → 32.1MHz
・R231(奥側)周波数カウンタ接続 → L208,L209調整 → 0.8075MHz ※実測0.804MHz
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・VR404調整 → 700mV
・VR204 → 反時計方向に廻しきる → 少しずつ戻しながら歪最小点を探す
・VR404調整 → 700mV
【PLL検波出力調整】
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・83MHz(1kHz,100%変調,70dB)MONO受信
・VR201 → 時計方向に廻しきる
●この状態でPLL検波出力がMPX回路に流れる
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・VR203調整 → 700mV
・L202調整 → 歪最小
【PLL検波/パルスカウント検波 切換レベル調整】
・音声出力端子にAC電圧計セット、Wavespectra接続
・83MHz(1kHz,100%変調,50dB)MONO受信
・VR201調整 → PLL/パルスカウントが切り替わる位置に調整
※PLL/パルスでは高調波歪の波形の様子が異なるので、これを見て切替状況を判断する
※今回は50dB以上でパルスカウント検波がMPX回路に流れるように設定した
【PILOT CANCEL調整】
・音声出力をWavespectraで観察
・83MHz(19kHz信号,10%変調,80dB)→ VR403調整 → 19kHz信号最小
【SEPARATION調整】Wide
・83MHz(L信号,80dB)→ VR401,VC401調整 → Rchもれ最小
・83MHz(R信号,80dB)→ VR402,VC402調整 → Lchもれ最小
【SIGNAL METER調整】
・VR103 → 反時計方向に廻しきる
・83MHz(1kHz90%変調+19kHz10%変調,20dB)
・VR102調整 → 第1灯が点灯する位置へ
【IF GAIN調整】
・83MHz(1kHz90%変調+19kHz10%変調,20dB)
・VR101調整 → 第1灯が点灯する位置へ
【AM VT電圧】
・TP1(R323右)DC電圧計セット
・ 603kHz → L306調整 → 2.2V±0.1V
・1404kHz → TC304調整 → 7.1V±0.1V
【AM受信調整】
・ 729kHz(NHKラジオ)受信 → L302調整 → 感度最大
・1332kHz(東海ラジオ)受信 → TC302調整 → 感度最大
・VR301 Sメーター点灯
・VR302 ミューティングレベル
■試聴----------------------------------------------------------------
・検波回路の前後は共通回路なので、検波方式の違いを確かめる実験ができます。
・同じ条件でデータを比較するとパルスカウント検波の方がかなり優秀でした。
・こんなに面白い機種があるなんて知らなかったです。
・毎回いろいろな発見があって楽しいです。