・2015年12月末、YAMAHA TX-2000の調整作業を承りました。
・TX-2000は1台所有していますが調整記録を残していませんでした。
・今回はキチンと記録を残すことも目的として作業を進めました。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 YAMAHA TX-2000 ¥100,000(1988年発売)
・Hifi Engine YAMAHA TX-2000 ※海外版サービスマニュアルあり
特長~取扱説明書から抜粋~
●高性能FMチューナー部
フロントエンドは高感度MOS FETを採用したRF増幅段、高SN比・高耐圧のツインバラクターダイオード採用の同調段、妨害特性に優れたデュアルゲートMOS FET採用のミキサー段で構成。IF段は電波の状態に応じて選択できるNARROW、WIDEの2モードを採用。MPX段には妨害ノイズを効果的にカットする新タイプのMPX回路の採用に加え、パイロットピュアキャンセラー回路を内蔵。本機は高感度・低歪率・高選択度を実現するとともに、高い信頼性を獲得しました。
●高性能AMチューナー部
2連バラクターダイオード、非同調高利得RFカスコード増幅段、二重平衡型作動ミキサーを装備したRF段。IF同調コイルと高選択度セラミックフィルター使用のIF段、低歪率ディスクリミネータで構成されるAMチューナー部は電界性雑音に強いローインピーダンスアンテナとともにAM放送を高感度・高忠実度で安定に受信します。
●マルチチューニングシステム
オート、マニュアル、ファインチューニングに加え、本機はFM/AM放送局をランダムに24局までメモリーし、プリセットキーを押すだけで選局することのできるプリセット選局機能を装備、正確で操作性の良いチューニングができます。
●CSL(コンピューターサーボロック)チューニング
PLLモードとFMサーボモードの2種類のチューニングモードをマイコンが信号の状態に応じて制御、正確で歪みの少ないFM受信をすることができます。
●マルチステイタスメモリー
プリセットメモリーは周波数と同時に、プリセット時に設定していた受信状態をすべてメモリーします。また自由に編集できるステーションコールサインメモリー機能も装備しました。
●リモコン標準装備
付属のリモコンを使用しますと、リスニングポジションを離れることなくプリセット選局をすることができます。
■動作確認------------------------------------------------------------
【依頼者様からお聞きした症状】
・他のチューナーと比較して受信感度が低い。
・同調する周波数が日によって変動することが多い。
【確認事項】
FM部
・本体はとても綺麗でサイドウッドはツルピカ、うっとりする美しさです。
・電源オン。オレンジ色の表示点灯。輝度劣化もなく眩しいほど輝いています。
・FMアンテナ端子はF型でA/B 2系統。同軸ケーブルを接続して受信確認。
・オート選局、マニュアル選局で名古屋地区のFM局を正常に受信できました。
・受信周波数にズレはありませんが、受信時の挙動から同調点ズレの気配を感じます。
・例えばNHK-FM(82.5MHz)の場合、82.4MHzで一旦停止してから躊躇うように82.5MHzになる。
・ファインチューニングにすると、82.5MHzに対して82.42MHz辺りでSメータ最大となる。
・IF MODE切替をAUTOにするとすべての局で NARROW 受信になる。
・翌日電源を入れてメモリ保持状態を確認したところ、、
・登録した周波数は記憶されていましたが、なぜかその周波数ではFM放送受信不可。
・マニュアル選局で周波数を少しずらしてみると82.5MHzのNHK-FMが82.3MHzで受信。
・オート選局を試してみると 82.3MHzでピタッと止まります。
・「周波数が日によって変動する、、」という現象の意味が分かりました。
AM部
・立派なスタンド型AMループアンテナが同梱されていました。
・取扱説明書に掲載されているイラストと同じ形なので純正付属品だと思います。
・「電界性雑音に強いローインピーダンスアンテナ」と解説されています。
・このアンテナを接続してAMの受信確認。
・名古屋地区のAM放送局をオート選局で正常受信しました。
・シグナルメーターはどの局も振り切れます。
・AM部は問題なさそうです。
ワイヤレスリモコン RS-TX2000
・単三電池2本セットして動作確認。
・プリセットしたメモリー24局を選局できる機能があります。
・というか、メモリ選局しかできないリモコンです。
■内部確認------------------------------------------------------------
・サイドウッドの側面には固定用のネジ穴がありません。
・サイドウッドとボディは連結され、底面と後面のネジで本体に固定されていました。
・シャーシは分厚い銅板製、大きな電源トランス、フロントエンドのシールドケースも銅製。
・さすが高級機ですね。豪華な造りになっています。
・フロントエンドは5連バリキャップ → WIDE/NARROW 2系統IF段 → レシオ検波
・LA1266:FM/AM一体型IF SYSTEM
・LA3433:PLL MPX IC
・VR 1:IF WIDE STEREO歪調整
・VR 2:IF WIDE STEREO歪調整
・VR 3:IF NARROW STEREO歪調整
・VR 4:IF NARROW STEREO歪調整
・VR 5:IF NARROW STEREO歪調整
・VR 6:IF NARROW STEREO歪調整
・VR 7:IF WIDE STEREO歪調整
・VR 8:IF WIDE STEREO歪調整
・VR 9:IF MONO歪調整
・VR10:S-Meter調整
・VR11:NARROWセパレーション調整 L→R
・VR12:NARROWセパレーション調整 R→L
・VR13:WIDEセパレーション調整 L→R
・VR14:WIDEセパレーション調整 R→L
・VR15:PILOT CANCEL調整
・VR17:IF OFFSET調整
・T 7:レシオ検波
・T 6:IF WIDE STEREO歪調整
・T13:IF WIDE STEREO歪調整
・T10:PLL入力位相調整
・T12:PLL入力位相調整
・T11:PILOT CANCEL調整
■調整記録------------------------------------------------------------
・同調ズレがありそうなのでまずは一通りの調整作業を行いました。
・海外版サービスマニュアルを一部アレンジ。
【本体設定】
・電源投入から5分以上経過していること
・OSCコイル、IFTの調整には金属製ドライバーは使用しないこと
・まずFMセクションを調整し、次にAMセクションを調整すること
・MODE:AUTO ST
・BLEND:OFF
・IF MODE:NARROW
・RF ATT:OFF
・FINE TUNING ON → すなわちCSL停止状態
・オーディオ出力をWaveSpectra接続
【電圧確認】
・+30 → +29V±1V → ※実測+28.6V
・+12 → +12.5V±0.5V → ※実測+12.3V
・-12 → -12.5V±0.5V → ※実測-12.2V
・+ 6 → + 6V±0.5V ※実測+6.2V
【VT電圧確認】
・L17の足に DC電圧計接続
・受信周波数 90MHz → T8調整 → 25.7V
・受信周波数 76MHz → 7.2V ※確認のみ
【FMフロントエンド調整】
・VR10の足 DC電圧計セット
・77.00MHz(SSG) 無変調 60dB受信 → FINE TUNING 電圧最大となる周波数を探す
・77.07MHz(TX2000)にて電圧最大
・この状態で T1,T2,T3,T4調整 → 電圧最大
・89.00MHz(SSG) 無変調 60dB受信 → FINE TUNING 電圧最大となる周波数を探す
・89.08MHz(TX2000)にて電圧最大
・この状態で VC1,VC2,VC3,VC4調整 → 電圧最大
【レシオ検波調整】
・VR10の足 DC電圧計セット
・83.00MHz(SSG) 70dB 無変調 → FINE TUNING 電圧最大となる周波数を探す
・83.07MHz(TX2000)にて電圧最大
・基板上のFM S端子~GND間にDC電圧計セット
・83.07MHz(TX2000)位置で受信した状態 → T7調整 → 電圧ゼロ
※以下、信号発生器 83.00MHz送信 → TX2000 83.07MHz受信
【モノラル歪調整】
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz 100%変調 → VC5,VR9調整 → Mono歪最小
【PLL入力位相調整】
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO(L-R) → T10,T12調整 → Lch出力最大
【ステレオ歪調整】NARROW
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO(L-R) → VR3,4,5,6調整 → STEREO歪最小
【ステレオ歪調整】WIDE
・IF MODE:WIDE
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO(L-R) → T5,6,13,VR1,2,7,8調整 → STEREO歪最小
【セパレーション調整】WIDE
・IF MODE:WIDE
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → VR13調整 → L→R漏れ信号最小
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → VR14調整 → R→L漏れ信号最小
【セパレーション調整】NARROW
・IF MODE:NARROW
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → VR11調整 → L→R漏れ信号最小
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → VR12調整 → R→L漏れ信号最小
【パイロット信号キャンセル調整】WIDE
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → VR15,T11調整 → 19kHz成分最小
・左右chのバランスに注意
【シグナルメーター調整】WIDE
・83.07MHz(TX2000) 80dB 1kHz STEREO → VR10調整 → レベルメーター全点灯
【ブレンドチェック】WIDE
・83.07MHz(TX2000) 70dB 1kHz STEREO → 受信中にBLENDスイッチON
・セパレーション値が左右とも悪化することを確認
【IF オフセット調整】
・FINE TUNING OFF → すなわちCSL受信状態
・D4~K3を短絡
・83.07MHzの表示が「30.7」という表示に変わる。
・VR17調整 → 周波数表示を微調整
・「30.7」→「30.0」と表示されるように調整
・調整後はD4~K3を開放
※D4~K3を短絡すると登録したメモリー内容がリセットされる
AM部
・付属AMループアンテナ接続
【VT電圧確認】
・ 522kHz受信 → L17電圧=23.1V ※確認のみ
・1620kHz受信 → L17電圧=3.5V ※確認のみ
【RF、IF調整】
・1053kHz受信(名古屋CBCラジオ)→ RFコイル調整 → Sメーター最大
・1053kHz受信(名古屋CBCラジオ)→ T9調整 → Sメーター最大
■動作確認------------------------------------------------------------
・上記の通り、海外版サービスマニュアルに基づいて各部調整しました。
・フロントエンドのRF調整で受信感度が大幅に向上しました。
・レベルメーターはほぼ最大値まで点灯します。
・レシオ検波調整やIF歪調整で歪率も大幅に改善しました。
・セパレーションは左右とも60dB程度確保できました。
・とても良い性能を示しています。
・付属AMループアンテナはとても高感度でAM放送を強力に受信します。
・ところが、、
・受信性能は良いのですが、やはり動作に問題ありでした。
・正常に調整を終えた後、電源オフ。
・2日後に再び電源を入れると受信周波数が-0.2MHzズレます。
・例えば名古屋のNHK-FM(82.5MHz)の場合、82.3MHzで受信します。
・ズレた周波数でも受信感度や音質は調整後の正常な値を示します。
・他のFM放送局も同様に-0.2MHzの周波数で受信します。
・この状態で電源オフ。
・すぐに電源再投入すると、今度は正常な82.5MHzで受信します。
・他の放送局も本来の周波数で受信します。
・正常状態で電源を切ってすぐに再投入しても正常です。
・少し時間をおいて電源を入れると再び0.2MHzズレます。
・この場合は再々度の電源再投入で正常に戻ります。
・AMは常に正常で周波数ズレありません。FMだけの問題です。
■修理記録:周波数ズレ----------------------------------------------
・不具合発生時もFM同調点は正常、電源電圧も正常です。
・正常時と不調時で各部電圧測定しながら詳細に比較したところVT電圧に差異発見。
・VT電圧(正常時)82.5MHz(12.03V)
・VT電圧(不調時)82.3MHz(12.03V)
・不調時のVT電圧は全域で正常時よりも僅か(0.2V程度)に高い状態でした。
・電源を再投入すると正常時のVT電圧になります。
・IC12(LC7210)周りの電解コンデンサが怪しいか?
・試しにC168(1uF/50V)、C169(10uF/16V) を交換してみました。
・3日間放置後に電源を入れたところ、正常な周波数で起動しました。
・その後のテストでも周波数表示の不具合は発生しなくなりました。
・不具合との因果関係はよくわかりませんが? とりあえず結果オーライです。
■修理記録:フロントエンド FET交換、トリマコンデンサ交換-------------
・次なる不具合は、、
・しばらく受信しているとSメーター表示が大きく変動するようです。
・IF MODE = NARROW / WIDW ともに共通する症状です。
・このとき、LA1266-16ピン(Sメーター駆動電圧)電圧が大きく変動しています。
・ということはフロントエンド内のFET劣化か?
・回路図確認 Q1,Q2 = 3SK101 → これを 3SK74 交換
・ついでにRF調整で敏感な反応をしていた VC4(10PF)を新品に交換。
・Sメーターの変動が安定しました。
■試聴----------------------------------------------------------------
・受信性能、各種測定値はとても良い性能を示しています。
・さらに輝くフロントパネル、ツルピカのサイドウッド、眩いオレンジ照明。
・YAMAHAらしい洗練されたデザインで、所有する喜びを感じます。
・私自身も大切に残しておきたいチューナーの一台です。