・2016年1月、Aurex ST-720の調整作業を承りました。
・Aurexは東芝のオーディオブランドです。
・一見するとチューナーとは思えない独特な外観です。
・以下、作業内容のご報告です。
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 Aurex ST-720 \105,000(1975年頃)
・オーディオ懐古録 Aurex ST-720 \105,000
・ラジオ技術 1976年1月号 東芝技術陣によるST-720の解説記事。
・地元の県立図書館でバックナンバーを閲覧してコピーしてきました。
・回路図などが見つからないので、この記事がとても参考になりました。
・1974 ST-910 280,000円 ※国産初のシンセチューナー
・1975 ST-720 105,000円 ※ピンボード・プリセット方式
・1976 ST-630 69,800円 ※マニュアル選局方法がST-720と同じ
■動作確認------------------------------------------------------------
・W450mm×D365mm×H148mm、重量8.3kg
・初めて実機を見ましたが、想像以上にビッグサイズでした。
・天板には目立つ擦り傷多数、ただ幸いにもフロントパネルはほぼ無傷。
・今まで見てきたシンセチューナーとは明らかに顔つき(操作方法)が違います。
・まず、どうやって操作するの??
【選局方法】
・フロントパネル中央部に選局ボタンが5個(CH1~CH5)縦に並んでいます。
・上から4個(CH1~CH4)はプリセット選局、一番下(CH5)のボタンがマニュアル選局です。
【マニュアル選局】
・このマニュアル選局の方法がマニアックで面白いです。
・本体下部に横一列に並ぶ小さなプッシュボタンで受信周波数を設定します。
・左から[80/70]、[8],[4],[2],[1]、[0.8],[0.4],[0.2],[0.1]
・例えば82.5MHzを受信するには[80]、[2]、[0.4],[0.1] を押し込んだ状態にします。
・同じAurex ST-630 のマニュアル選局も同じような構造でした。
・さすが、シンセチューナー黎明期の製品ですね。
【プリセット選局】※各部の名称は上記雑誌記事の記述に従っています。
・「ピンボード」を使って選局ボタン(CH1~CH4)に対応する周波数をセット。
・フロントパネルに並んだ「ピンボード収納ケース」を手前に引っ張って取り外す。
・収納ケースの左端を跳ね上げて中にセットされたピンボードを取り出す。
・マニュアル選局同様に、ピンボードのピンを折ることによって受信する周波数を設定。
・各収納ケースにそれぞれ2個のピンボードが入っていました。
・4段×各2個=合計8個のピンボードのうち、5個が未使用でした。
・受信周波数を設定したピンボードを収納ケースに納めてチューナー本体にセット。
・収納ケースをグッと押し込むだけです。
・放送局名や周波数を透明シートに印字して収納ケース前面に貼れば完璧です。
【動作確認】
・当初は周波数表示が壊れているかと思いましたが、、
・操作方法が理解できたところで再度動作確認して正常表示を確認しました。
・周波数表示は7セグメントのLEDです。
・マニュアル選局で名古屋地区のFM局を受信できました。
・STEREOランプ点灯、実際にステレオ感もあります。
・FM局が存在しない周波数ではエラーインジケーター[TUNING ERROR]が点灯します。
・モード切替OK、ハイブレンドスイッチたぶん効果あり。
・REC CALトーンOK。可変出力VRガリ無し。
・マルチパスH端子からも正常音声が聞こえます。
・どうやら基本動作はOKのようです。
■内部確認------------------------------------------------------------
・フロントエンド、チューナー基板、コントロール基板、電源基板が整然と並んでいます。
・5連構成フロントエンド。局発回路はもう一つのシールドケース内にありました。
・実質6連バリキャプ相当と言えるでしょうか。
・IF段(4極LCブロックフィルター×3段構成)→ レシオ検波 → LA3350(PLL-MPX IC)
・VR1:VCO調整 → TP19kHz
・VR2:セパレーション調整
・VR3:REC CALトーン調整
■調整記録------------------------------------------------------------
【VT電圧】
・フロントエンド 黄色リード線にDC電圧計セット
・アンテナ入力なし
・76MHz → OSC L01 調整 → 確認のみ※実測 3.2V
・90MHz → OSC VD01調整 → 確認のみ※実測13.8V
【RF調整】
・Multipath V端子 DC電圧計セット
・76MHz(無変調,40dB)→ L01~L05調整 → 電圧最大
・90MHz(無変調,40dB)→ VD01~VD05調整 → 電圧最大
・83MHz(無変調,40dB)→ IT01調整 → 電圧最大
【レシオ検波調整】
・83MHz(1kHz,80dB)受信 → IFT02調整 → 0.0V
・83MHz(1kHz,80dB)受信 → IFT01調整 → 高調波歪最小
【MPX VCO調整】
・TPに周波数カウンタ接続
・83MHz(無変調,80dB) → VR01調整 → 19kHz
【SEPARATION調整】
・83MHz(R/L信号,80dB)→ VR02調整 → もれ信号最小
【HI BLEND】
・スイッチONで 6000Hz以上が緩やかに減衰することを確認。
【REC CAL調整】
・基準音539Hz
・本体スイッチ設定 50% → VR03調整 → -6dB設定
・本体スイッチ設定100% → 確認のみ → ±0dB
■試聴----------------------------------------------------------------
・1975年製、シンセチューナー黎明期の貴重な機種です。
・ガチャン、ガチャン と選局するクラシカルな感じがイイですね。
・特別に高音質というわけではありませんが、でもFM放送を不満無く受信できます。
・歴史的な価値がありそうです。