・1974年発売当時、定価250,000円、Technicsの最高級チューナーです。
・2020年7月、ついにその ST-9700 に触れる機会が巡ってきました。
・もちろん故障機ですが、、
・さて、本当に直せるのか??
■製品情報------------------------------------------------------------
・オーディオの足跡 Technics ST-9700 ¥250,000(1975年頃)
・オーディオ懐古録 Technics ST-9700 FM STEREO TUNER ¥250,000
・「FMチューナーマニュアル」 黒川晃著 昭和53年(1978年)
・バイブルとも言えるこの本に ST-9700 に関する記述が多く登場します。
・P080~081「2連を局発に用い、残る7連のうち1連をAGC電圧検出用に使っている・・」
・P136~137「変形フォスターシーレー検波回路が採用されており・・」検波回路図
・P159~160 MPX回路
・P380~ ブロック図
■動作確認------------------------------------------------------------
・外観は弟機 ST-9300 とそっくり。
・重量はアンプ並みの12kg、持ち上げるとずっしり重い、、
・フロントパネルに塗装ハゲ、ボディは経年の汚れ。
・電源スイッチやMUTINGスイッチのノブがオリジナルではない。
・電源コンセントがインレット加工済み。
・さて、FMアンテナを接続して電源オン、、
・周波数窓と二つのメーターにオレンジ色照明点灯。
・TメーターとSメーターは正常に振れている。
・指針と目盛りに0.2MHzのずれ。
・ただSTEREOランプ点灯しない。
・AUTOモードとSTEREOモードでは音が出ない。MUTINGがかかった状態。
・MONOモードではFM音声が聞こえるが激しいノイズが乗っている。
・この状態でマルチパスH端子からはキレイな受信音が聞こえる。
・これはMPX回路に不具合がありそうな予感です。
■内部確認------------------------------------------------------------
・上面:フロントエンドユニット、信号系検波回路、制御系IF回路
・裏面:電源回路、MPX回路
・ほぼすべての電解コンデンサーがオーディオグレード品に交換済み。
・電源端子のインレット化とともに既にかなり手が加えられています。
・収集した情報を実機で確認してみました。
【フロントエンド】
・超精密級FM専用9連周波数直線形バリコン、可変容量12pF、エアギャップ2mm
・トリマコンデンサにはバッファ回路付きテフロンシリンダ形ガラストリマ採用
・アンテナコイルには銀メッキを施した無負荷Q250という高性能コイル使用
・RF増幅段にはデュアルゲート4極MOS-FET(3SK49)を選別して使用
・AGC回路を設け強電界入力140dBでも飽和しない驚異の耐入力性能
【3系統独立したIF回路】
・信号系IF回路 → 4素子LCフィルター+セラミックフィルター
・制御系IF回路1 → Sメーター駆動系
・制御系IF回路2 → Muting駆動系
【フォスターシーレー検波】
・このユニット内に検波回路がある模様。
※分解できないので検波ダイオードの向きは未確認。
【ダブルPLL方式MPX】
・PLL回路をIC化し、2個のICをパラレル接続
・フィルターなしでパイロット信号を除去
・復調手順
・コンポジット信号(メイン信号+19kHz信号+サブ信号)→(19kHz信号)生成
・(コンポジット信号)-(19kHz信号) → (メイン信号+サブ信号)生成
・(コンポジット信号)-(メイン信号+サブ信号)→(19kHzパイロット信号)生成
・(19kHzパイロット信号)→ (38kHzスイッチング信号)生成
・(メイン信号+サブ信号)×(38kHzスイッチング信号) → ステレオ信号分離
・SN76115N 1個だけでステレオ分離できるのに巧妙な回路構成になっています。
■修理記録:はじめに---------------------------------------------------
・ST-9700の回路図やサービスマニュアルが入手できません。
・そこで ST-9300 のサービスマニュアルを参考にして仮調整しました。
・仮調整の結果、チューナー回路は正常に動作しました。
・Sメーターが大きく振れ、Tメーターが中点示します。
・指針と目盛りのズレは修正しました。
・マルチパスH端子からはキレイなFM音声が聞こえます。
・VCO調整によってSTEREOランプも点灯しました。
・ところが固定/可変端子とも出てくる音に激しいノイズあり。
・あれこれ弄っているうちに何と Lchの音が出なくなりました。
・一方のRchは音は出ますが、やはり激しいノイズがあります。
・回路図が無いのでMPX基板を取り外しハンダ面を見ながら配線を確認。
・iPadのノートアプリGoodNotesでハンダ面の写真を撮りタッチペンで部品番号を記入。
■修理記録:ノイズ問題------------------------------------------------
・MPX基板を見渡すと 2SK30A(GR,Y) がいくつか並んでいます。
・2SK30Aの故障事例は ST-9030T で何度も経験あり。
・何度も基板を取り外すのは面倒なので 2SK30A×6個を一気に交換。
・TR314,TR315,TR316,TR317,TR318,TR319 (2SK30A) → 2SK246交換
・これで激しいノイズが無くなりました。
・故障していたのは スイッチングTR318,TR319(2SK30A) だと思います。
・ただLchの音が出ない症状は改善しない。
■修理記録:Lchの音が出ない-------------------------------------------
・まずはリレー(RLY501)前後を音を確認。
・リレー(RLY501)の入力側でも音が出ていない。
・配線を追いICクリップで音を拾いながら故障個所を捜索。
・TR511(2SA721)→ 2SA1015交換
・これでLchから音が出るようになりました。
・左右のバランスを取るためRch側のTR511(2SA721)も2SA1015に交換。
・なお、調査の過程でIC302(SN76115N)を取り外してソケット化して動作確認。
・さらにTR309,TR310,311(2SC1327) → 2SC1815 交換。
■調整記録------------------------------------------------------------
・弟機ST-9300のサービスマニュアルを参考にして調整手順を組み立てました。
・Hiblend → OFF
・Muting → OFF
【B電圧調整】
・電源基板 4番端子(Pink)~ GND → DC電圧計セット
・アンテナ端子に信号を加えない状態 → VR601調整 → -12V
【AGC調整】
・フロントエンド内TP1 ~ GND → DC電圧計セット
・アンテナ端子に信号を加えない状態 → 4V ※確認のみ
【検波調整】
・アンテナ端子に信号を加えない状態 → T102(奥) 調整 → Tメーター中点
【OSC調整】フロントエンド内
・指針位置 → 目盛り76MHz → 76MHz受信 → L8,L12調整 → Sメーター最大
・指針位置 → 目盛り90MHz → 90MHz受信 → CT8,L9調整 → Sメーター最大
【RF調整】フロントエンド内
・76MHz受信 → L1,L2,L4,L5,L6,L7 → Sメーター最大
・90MHz受信 → CT1,CT2,CT3,CT4,CT5,CT6,CT7調整 → Sメーター最大
・83MHz受信 → T1調整 → Sメーター最大
【検波調整:信号系】検波基板
・タッチセンサー → OFF
・固定出力端子 → WaveSpectra接続
・83MHz受信 → Sメーター最大位置で受信
・T102(奥側)調整 → Tメーター中点
・T102(手前)調整 → 高調波歪最小
・T103調整 → 高調波歪最小
【検波調整:制御系】IF基板
・D208 → DC電圧計セット
・83MHz受信 → T201,T202調整 → 電圧最大(マイナス値)
【Sメーター調整】IF基板
・83MHz100dB → Sメーター目盛り4.8
・83MHz 20dB → Sメーター目盛り0.7
【Muting調整1】MPX基板
・Mutingスイッチ ON(中間位置)
・83MHz20dB受信 → VR402調整 → 音声が出る位置へ
【Muting調整2】IF基板
・Mutingスイッチ DEEP(下位置)
・83MHz30dB受信 → VR203調整 → 音声が出る位置へ
【VCO調整】MPX基板
・TP304 → 周波数カウンタ接続
・83MHz無変調 → VR301調整 → 19kHz
※このときTP301,TP302も同じ値を示す
・83MHzST信号 → VR304調整 → STEROランプが点灯する中間位置?
※VR304の調整方法はこれで良いのか不明?
【PILOTキャンセル調整】MPX基板
・可変出力端子 → WaveSpectra接続 ※LPFを迂回した波形を観測可能
・83MHzST信号 → VR302,VR303調整 → 19kHz信号最小
【AFレベル調整】MPX基板
・固定出力端子 → AC電圧計セット
・83MHz60dB受信 → VR501調整 → Rch 0.775v
・83MHz60dB受信 → VR502調整 → Lch 0.775v
【セパレーション】MPX基板
・固定可変端子 → WaveSpectra接続
・83MHzST信号 → VR504調整 → 反対chへの漏れ信号最小
【Hiblend調整】MPX基板
・Hiblendスイッチ → AUTO(中間位置)
・固定可変端子 → WaveSpectra接続
・83MHz40dB,ST信号 → Hiblend作動位置へ ※セパレーション値が悪化する位置
※AUTOでもHiblendが効いてしまいます。
※電波状態が良好な場合は Hiblend=OFF 推奨
■試聴----------------------------------------------------------------
・ガンメタのフロントパネルとオレンジ色照明、この組み合わせが最高ですね。
・今回の調整作業で受信感度が大幅に向上しました。
・9連バリコン、複雑なMPX回路、選別部品の使用など拘りの高級機です。
・ただ、、
・弟期ST-9300(定価128,000円)の2倍も高い超高級機ですが、、
・その価格差を実感できるほどの性能差は私の老化耳では感じられません。
・個人的には薄型ボディの ST-9030T が好みかな、、